ああ、蝉も鳴かなくなったな、そろそろ夏が終わっちゃう。ベランダに蝉の抜け殻を見つけて、夏だなあ、なんて思っていた一ヶ月前、もうあれから一ヶ月が過ぎたなんてにわかに信じがたいよね、夏休みだって終わっちゃうんだもん。そもそもクーラーの効いた部屋にいたあたしには夏のうだるような暑さを感じることなんてあまりなかったのだけれど、ヴァリアー幹部のみなさんは毎日任務に出かけては「暑い暑い」と半ば倒れこむようにこの屋敷に帰ってきていた


「ねえ、かき氷が食べたい」
「外も出ねぇくせによく言うぜぇ」
「でも、早くしないと夏が終わっちゃうし」
「こんなクーラー効かした部屋に篭ってたら身体に悪いだろぉ」


ソファーに身体を投げ出すように横たわるスクアーロが言った。彼の長い髪が汗のせいだろうか、すこし湿ってる。スクアーロの白い肌は涼しそうだと思っていたけれど、触ってみるとあたしより少しあたたかくて、汗ばんでいた。しばらくぺたぺた触れていたら、てめぇ冷てーぞぉ、と言われて思わず手を引っ込めた。そんなあたしを見て、彼はククと喉を鳴らして笑う。


「お前が体調崩したらボスがうるせぇからなぁ」
「…そしたらスクアーロは心配してくれるかしら」
「ハ、」


ソファの前の床に座っていたあたしを、スクアーロが引き上げて、あたしは自然と彼の上に乗る体勢になった。長身の彼に、あたしはすっぽりおさまってしまう。ああ、やっぱり熱を持っている白い肌。冷たいのが気持ちいいのか、あたしの手を自分の首筋に持っていくスクアーロ。あたしは彼の熱を求めてその首筋に腕をまわした


「ひっついてたら暑くなっちゃう」
「なんねぇ、」
「なるよ」


なんて言いながら、あたしも離れられないのはやっぱり愛なのかな、なんて思って、そのまま目を閉じる。そしたらスクアーロがおでこにキスを落として、「俺はいつでも心配してるんだぜぇ、」なんて漫画みたいなセリフを吐くものだから思わずにやけてしまった、


「夏が終わる前に、かき氷食べに行くかぁ」
「いいの?」
「たまには外に連れ出さないとなぁ」
「えへへどうもありがとうございますー」


ああ、こんな小説みたいな恋にあこがれていた頃もあったなあ、なんて思いながら窓の外に目をやれば、強い日差しと真っ青な空が今日もイタリアの街を動かしている。あたしの下でちょっぴりバテ気味のスクアーロは、さっきより汗ばんでいて(やっぱりひっついてるから暑くなってるじゃない、)そんな肌にキスをして、今日はあたしの部屋で一緒に寝よ、とお誘いをあげれば、彼は重い身体を起こして立ち上がった


「うしし、早く部屋行けよ暑苦しーっての」
「よ 妖艶だ…」
「まったくアツイわねぇ〜」
「失礼しましたー、行こスクアーロ」


みんながいる部屋を出てあたしの部屋に行く、と言っても、あたしの部屋は隣だったのですぐに着いてしまうのだけれど。今日はもう疲れたのか、スクアーロは部屋に入るなりベッドに直行してばたりと倒れた。「、」名前を呼ばれてあたしもベッドに駆け寄ると、やっぱり手を引かれて、あたしもベッドに倒れる。


「ねえ、明日かき氷食べに行ってくれる?」
「ああ、約束なぁ、…」
「スクアーロってあたしに甘いよね、そんなとこも大好きだけど」
「…だけだぜぇ」


あたしの頬をなでる手に、彼がもう動く気力も残ってなさそうなのを悟って、あたしも目を閉じて寝ることにした。




0 9 6 飽 和 状 態




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20070830 お題 // by hazy