後にも先にも、あんなに自分が馬鹿になったのはあの時だけだった。

俺も彼女も、マフィア関係の人間が多く通う学校に通っていて、たまたま同じクラスになった。きっかけはそれだけだ。自然と時が経つとともに、俺たちはいわゆる恋人同士とか言う関係になっていた、俺も彼女もお互いあまり多くは伝えなかったけれど、繋いだ手はいつも、接着剤で貼り付けられたように離れなくなった それが 変わったのは、剣帝を倒しに行った日の少し前だっただろうか、くだらないことで喧嘩をして(たしか彼女が他の男にうっかりキス、されて、)俺は彼女を絶対許すまいと、なんと言われようとそれからしばらく口を利かなかった。(剣帝を倒したら、仲直りしよう、)


「よぉ、剣帝倒したんだってな、」
「跳ね馬、はどこだ」
?ああ、あいつ、引っ越したらしいぜ」
「………、」


こんなにも簡単にすべてが崩れ落ちるものなんだと、その時はじめて知った、もう一生会うことはないのかと思えば、案外愛なんてあっさりしたものだ。その証拠に涙なんて一滴もでなかったのだから(心はしぬほど泣きたかったのに、)




あれから数年経った 今も、




俺はお前の名前を忘れちゃいない、のはいったい何故だ


「ス、クアーロ」


瞳 唇 声 体温 ぜんぶ、覚えている、ガキの頃の自分なんてまったくくだらない未熟者だとしか思わないが、


「………大人に、なった、なぁ」
「あなたのほうが、」


(お前は、俺たちが一緒にいたこと、くだらないと思っているか、)突然の再会に彼女は目を見開いた、久しぶりに見た彼女は、もう大人だ


「……もう一度会うなんて、絶対ないと思ってたぜぇ」
「あたしも、思わなかったわよ、まさかこんなこと…」
「変わった、なぁ」
「お互いね」


きっと彼女もあの頃の俺たちを思い出している、


「変わってねぇ、」
「うそ、だって髪とか伸びてるし、背だって」
「分かんだろぉ」
「…」




053 ただ懐かしいだけ
(だと思いたいのに、抱きしめるこの腕はなんだ?)


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20070820 お題 // by hazy