「王様だーれ?」
「うしし、俺だ」


金髪の王子(自称)が先が赤く塗られたわりばしを見せた。あたしとマーモンはそのわりばしをじっと見て、本日何回目かも分からないため息、


「えーベルー?さっきからベル多くない?まさか何か仕組んでるんじゃ、」
「うるせーよ、何もしてねえし。ていうか俺王子だもん当たり前じゃね?」


ベルは歯を見せて笑って、あたしに嫌味を突きつけた。すでに何回もそんなことが繰り返されていて、(なんでこんなにベルばっか王様が当るのか、本当に分からない、神様って残酷だ)もう言い返す言葉もなく、ただ、ぐ、と悔しさを堪えることしか出来ない、それがまた悔しい。あたしとベルがバチバチ視線で喧嘩していると、マーモンがそれを遮った、


「ベル、早く命令して」
「そーだな、うしし」
「やだ笑ってるこわーい」
いい加減キレっぞ、覚えとけよ」
「ごご、ごめんなさい」


仕方なく黙るあたし、ベルはもう何度も王様になってるからそろそろ命令もなくなってきたんじゃないだろうか(というより、そうであって欲しい)なんて、少しだけ夢を見たのもつかの間、やっぱりベルはそんなに甘くない。


「じゃー2番、明日の俺の任務代わりにやる」
「え!ベル見たでしょ、絶対見た!」
「見てねーし」
「…明日せっかく任務なかったのに」
「ご愁傷さま」


そもそもあたしなんで王様ゲームなんかやってるんだろう、…たしかベルに誘われてあたしも暇だったから「やる」なんて馬鹿なことを口走ってしまったんだ、今更ながらすごく後悔。うわーん、なんて泣き真似をしてみてもこの二人にはぜんぜん通用しない。ふと少し離れたソファに座るスクアーロを見ると、優雅に午後のティータイムを満喫しているようで(ていうかスクアーロってそんな柄だったわけ?)平和でいいな、なんて、


「もーつまんないこんなゲーム、罰ゲームあたしばっかりだし!」
って馬鹿だろ」
「馬鹿とかいうなー!」
「そもそも王様ゲームを3人でやってるのがいけないんじゃないかい?」
「もう少し人数増やせってこと?」
「うむ」


もうめちゃくちゃなあたしにマーモンが提案した。そうか、命令される人が2択だからあたしばっかりに、なる、というのもなんかつじつまがうまく合わない気がする…けど、でもとにかく人数が増えれば命令される可能性も低くなるもんね、ありがとうマーモン!という訳で、あたしはこのつまらない王様ゲームに加わってくれる勇者を探すことにした。まずは部屋の中を見渡す。いるのはスクアーロ、のみ、だ。そういえば他のみんなは今頃任務を頑張っているんだったっけ、ということは勇者候補はただひとり、


「スクアーロー、一緒に王様ゲームやらない?」
「…あ゛ぁ?」


あたしがスクアーロにお誘いをかけると、彼は渋々振り向いた。そんなスクアーロを見てベルとマーモンがクスクス笑う、


「ていうかさっきからやりたくてしょうがなかったんじゃん?」
「あ、そうなの?誘ってあげなくてごめんねスクアーロ」
「う゛お゛ぉい!やりたかったとかそんな訳ねぇぞぉ!」


ベルがつっかかると、いとも簡単に食いつくスクアーロ、あんたって結構素直だよね、(だって今だってもう椅子から立ち上がってこっち来てるんだもん、)スクアーロは乱暴な足取りであたしの隣に向かって来て、ドシンと腰を下ろした。あたしはわりばしを一本増やして、合計で四本になったそれらを適当に混ぜる。


「素直になりなよ、がいじめられてるの見てるが耐えられなかったんでしょ」
「うしし、バレバレ〜」
「うっせぇ!」
「な、なによそれならさっさと助けてくれればよかったのに!」
「う゛お゛ぉい!てめぇも変な勘違いすんじゃねぇ!」


来るなりあたしを含めみんなにからかわれているスクアーロを見て、よし、これならいけるかもしれないと思ってすこし安心した。だってもう罰ゲームはこりごりだし、そろそろあたしも王様になってみたい、今までいろいろあった(マーモンに膨大なお金要求させられたりベルに奴隷になれって言われたりパシられたりボスにいたずら仕掛けさせられてころされそうになったりエトセトラ)けれど、今度こそ王様になってベルとマーモンに仕返ししてやるんだ!、なんてひそかに決心する。


「さてはじめようか」


マーモンの一言でいっせいにわりばしを手に取った。今度こそ、今度こそ……!、 と思って見た手中のわりばしの先は、わお!、また王様じゃない、なんて(やっぱり神様は残酷だ、)ここはもう仕方ない、せめて王様がベルかマーモンではないことを祈る。そっとベルの方を見ると、ベルは「げ、王様来ねー」と言ってわりばしを床に捨てた。その行為にすごく喜ぶあたし、


「やった、ベルじゃないのね!」
むかつくー」
「僕でもないよ」


ベルでもマーモンでもないと言うことは、つまり、あたしとベルとマーモンの視線は、先端の赤く塗られたわりばしを持つ人物に注がれた。


「俺だぁ、」


スクアーロはあたしたちにその王様の証であるわりばしを見せ、あたしはそれを確かめると、いきなり王様なんてツイてるね鮫のくせにさ、なんて嫌味を言ってやった、だって今まで幾つもの命令に従ってきたあたしが、一度も引いたことのないそのわりばしを、さっきまで優雅に平和な午後のティータイムを満喫していた男が手にするなんて、そんな、(神様助けて!)完全に元気のなくなったあたしは、ついにその場に倒れた。このままこの床に身も心も預けてしまえたらなんていいだろう、


「命令は?」



床に寝そべって天井を見つめるあたしの視界の隅にいるスクアーロが、あたしの名前を呼ぶ、


「え、何?」
「王様ゲームやめて俺の部屋に来い、命令だぜぇ」


そしてスクアーロはあたしの手を取って、引っぱる、と、あたしは彼にされるがまま身体を起こされた。そうだよね、こんなつまんないゲームやめればいいんだ、ありがとうスクアーロはあたしの王子様だね、だって悪魔の白に幽閉されたお姫様を助けた勇者ですもの!、なんて思っているうちにスクアーロは立ち上がり、あたしの手を引いて、


が抜けたらオモチャなくなんじゃん」
「言わずもがなそれが目的だろうね、なかなかやるじゃないか」


ベルとマーモンがごちゃごちゃ言ってるけどもうそんなの耳に入らない、あたしは王様ゲームに負けてばっかりだったのに、いつの間にか一番勝ったような気がしてならなかった、たぶん絶対そんなことはないんだけど。スクアーロの後ろを付いて行って、少し早足でドアに向かう、


「いってらっしゃいお姫様」


部屋を後にするあたしに、皮肉をこめてベルが言った。




くだらないの救出劇
「う゛お゛ぉい、お前もあんな見え透いた罠にハメられてんじゃねぇよ、」「だってスクアーロが助けてくれると思って、あたし待ってたの」




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20070902 どこから仕組まれていた?