窓から差し込む光に重い瞼が朝を感じて、目を開いた。起き上がろうと身体を持ち上げようとすれば悲鳴をあげる身体、「う、」思わず小さく呻いて、ああそうだった、昨日、(下腹部ナイフでやられたんだっけ、)シマ争いで一悶着あって、名前も知らねえマフィアの下っ端の男にわき腹を刺されたことを思い出す。気付けば腹には包帯が巻かれていて、「起き上がんのも嫌になるよなぁ、」思い通りに動かない鈍い痛みを引きずる身体に、むなしく自嘲した。


「ディーノ、起きた?」
「…ああ、入っていいぜ」
「失礼します、ボス」


部屋に入ってきたのは、その手には救急箱が抱えられている。ガチャリとドアが閉められ、はゆっくりベッドに向かってくる。苦笑いして、「調子はどう?」と聞いてくる彼女に、「たいしたことはねえよ、」笑顔で返した。ベッドのかたわらに救急箱が置かれる。


「心配させてごめんな」
「心配なんかしてない」
「ハハ、もしかしなくても…怒ってる?」
「怒っているように見える?考えてみればいいじゃない、あなたは自分の恋人がナイフで刺されて気を失ったと聞いたらどういう気持ちになると思うの、」
「そりゃ最悪だ」


今度は俺が苦笑い、すると、彼女は笑顔で「でも、生きていてくれてよかった、」と言った。漂う切なさみたいなものを拭おうと、抱きしめようと思ったけれど、今の俺に身体を動かすことは、情けないが無理なので、手を伸ばして彼女の頬をなでる、(を残してしぬなんて、)あり得ないことを考えながら、気持ちよさそうに目を細めたを見て、すごくいとしい、と思った、


「絶対、お前を残してしんだりしない、から」


誓うように紡いだことば、は俺を抱きしめて、静かにうなずいた。マフィアのボスである俺がそんな約束をしたって、それは生命の保証にはならないし、その約束が絶対なんかじゃないことを、彼女も分かっている。ごめん、なんて謝罪の言葉は余計彼女をつらくさせるだけだろうから言わないけれど(俺が、こんないつしぬか分からない奴で、それでも愛してくれて、)せめて、


「俺は…のために生きる、」
「それは光栄ですわ、ボス」


の髪の毛にキスをして言えば、気取った口調で返す彼女、


「…今はぐらかしただろ、ちゃんと名前で呼んで」
「あはは、だってボスはボスでしょ」
「そ、そりゃそうだけどよー、なんだまだ怒ってんのか?」
「もう怒ってないよ、」


顔を上げた彼女に軽くキスをして、小さく、愛してる、と囁けば、赤くなった顔が俺を見る。照れ隠しみたいに、怪我は痛くないのかと問うは、俺に救急箱から痛み止めの錠剤と一緒に持ってきていたらしい水を差し出して、薬を飲むように促した。「なあ、口移しで飲ませて?」なんて冗談を言ってみるけれどそんな願いは軽くスルーされ、てしまうはずが、なあ、この状況で残酷すぎるぜお姫様









あなたが生きていて


くれればいいの



と彼女はそのキスで俺を
(俺をいつかころすのはお前だな、きっと)






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20070902 本誌の10年後ディーノさんに1秒でやられましたあはは